2型糖尿病治療薬の選択肢が増え、特にGLP1受容体作動薬に注目が集まっています。
今回の記事では、糖尿病の基礎的な知識から2022年9月5日に糖尿病学会から発表された「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」、アルゴリズムの中でのGLP1受容体作動薬の位置付けを解説します。
糖尿病の基礎から最新の治療薬までざっと知りたい方は、参考にしてみてください。
Contents
糖尿病とは
糖尿病とは、「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である」と定義づけされています。
高血糖とは、血液中の糖の値が高い状態です。
糖はヒトの重要なエネルギー源の一つで、肝臓に蓄えられ、筋肉や脂肪組織に取り込まれます。
つまり、健常人であれば、食事で食べた糖分(炭水化物)は、消化管から吸収されたのちに、血液中から各組織に取り込まれるため、血糖値が正常に戻るのです。
糖が、血液中から各組織に取り込まれるために必要なものが「インスリン」です。
インスリン作用とは
インスリン作用とは、「インスリンが体の組織で、代謝調節能を発揮すること」をいいます。
適切なインスリンの供給と組織のインスリン必要度のバランスがとれていれば、血糖を含む代謝全体が正常に保たれます。
インスリンの分泌不足またはインスリンの抵抗性が増大すると、インスリン作用不足をきたし、血糖値は上昇します。
インスリンは膵臓のβ細胞から分泌される、血糖値を唯一さげるホルモンであり、インスリン分泌量が足りないと、糖が組織に吸収されないために、血糖値は上昇するんです。
例えば、肝臓のひとつの細胞で、インスリン1の量で10の糖を吸収していたものが、インスリン1の量で2の糖しか吸収しなくなることを「インスリン抵抗性増大」と呼びます。
つまり、インスリン抵抗性が高まるとインスリンの分泌量が増大します。
肥満はインスリン抵抗性を高め、糖が組織に吸収されにくくなるため、血糖値は上昇します。
糖尿病治療の目標とコントロール指標
糖尿病治療目標
糖尿病の治療目標は、「未来」「近い将来」「現在」の3段階に設定されています。
【未来の目標】
糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL
【近い将来の目標】
糖尿病の合併症 糖尿病最小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)
および
動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、抹消動脈疾患)の発症、進展の阻止
【現在の目標】
血糖、血圧、脂質代謝の良好なコントロール状態と適正体重の維持、および禁煙の遵守
つまり、血糖を適正にコントロールすることで、合併症を予防し、寿命とQOLを維持することが糖尿病の治療目標です。
高血糖状態が続くと血管がボロボロになるために、細い血管から太い血管へと影響を及ぼします。
糖尿病の最初に出てくる合併症を「し・め・じ」と呼ぶと覚えやすいです。
- し:神経障害
- め:網膜症
- じ:腎症
これらは、細い血管の合併症で、太い血管の合併症は、心筋梗塞や脳梗塞などが代表例です。
心筋梗塞を起こすと心不全になりますし、脳梗塞を起こすと麻痺が残ったり寝たきりになったりするため、QOLが著しく低下します。
だから、糖尿病治療においては、今の血糖値を適正にコントロールして、合併症を予防することがとても大切です。
コントロール指標
血糖コントロール指標には、HbA1cが用いられ、目標値は以下の通りです。
目標値は、「熊本宣言2013」と「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」をもとに、決まっています。
目標 | 血糖正常化を目指す際の目標 | 合併症予防のための目標 | 治療強化が困難な際の目標 |
HbA1c(%) | 6.0未満 | 7.0未満 | 8.0未満 |
糖尿病治療のアルゴリズム
2022年9月5日に日本糖尿病学会より、「2型糖尿病の薬物療法アルゴリズム」が発表されました。
アルゴリズム作成のコンセプト
糖尿病治療アルゴリズム作成のコンセプトは、以下の通りです。
- 糖尿病の病態
- 日本における使用実態
- 併存疾患に対するエビデンス
日本人と欧米人の糖尿病の病態が違い、治療戦略や処方実績も異なっているためです。
2型糖尿病の薬物治療アルゴリズム
【Step1】病態に応じた薬剤選択
【Step2】安全性への配慮
【Step3】Additional benefitsを考慮すべき併存疾患
【Step4】考慮すべき患者背景
Step1 「病態に応じた薬剤選択」においては、指標に肥満(BMI25kg/㎡以上か未満)が用いられています。
肥満度とインスリン抵抗性には、正の相関があるため、肥満度が高いとインスリン抵抗性が高く、肥満度が低いとインスリン分泌量が少ないと想定されます。
Step3 「Additional benefitsを考慮すべき疾患」は、以下3つの疾患です。
- 慢性腎臓病
- 心不全
- 心血管疾患
3つの疾患は、前述の通り、糖尿病に起こり得るかつ予防すべき合併症です。
SGLT2阻害薬とGLP1受容体作動薬が明記されているのは、海外を中心とした大規模エビデンスが根拠となっています。
GLP1受容体作動薬のエビデンス
GLP1受容体作動薬:慢性腎臓病(CKD)に対するエビデンス
以下の薬剤にて、エビデンスがあります。
リラクルチド
持続性の顕性アルブミン尿の発生抑制により、複合腎エンドポイントの発症抑制
セマグルチド
腎複合エンドポイントを減少
N Engl J Med 375:1834-1844
デュラグルチド
eGFR低下を抑制し、アルブミン尿を有意に減少
Lancet Diabetes Endocrinol 6: 605-617
複合心血管アウトカム(心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳梗塞)を減少
GLP1受容体作動薬:心不全に対するエビデンス
GLP1受容体作動薬の心不全予防のエビデンスに一貫性は認められないものの、メタ解析で心不全に有用であることが示されています。
Lancet Diabetes & Endocrinology 2019;7(10):776-785
GLP1受容体作動薬:心血管疾患に対するエビデンス
以下の臨床試験で、MACEの有意な減少が認められています。
- LEADER N Engl J Med375:311-322
- SUSTAIN6 N Engl J Med375:1834-1844
- Harmony outcomes Lancet 392:1519-152